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河合つくし通信

取りまとめのないブログです…。一応細く長く続けていく予定。

本の感想⑥最後の家族

 

 

最後の家族

最後の家族

 

 

【あらすじ】
大学を2年で中退し、1年半以上も引きこもり生活を続ける内山秀樹(21歳)が主人公。 内山家には、リストラにおびえる父親・秀吉、若い大工と密会を重ねる母親・昭子、引きこもりの長男・秀樹、10歳年上の元引きこもりの男と交際する長女・知美がいた。

秀樹はある日、お向かいの家で夫に暴行を受けている女を目にする。それを「ドメスティック・バイオレンスDV)」だと知った秀樹は女を救おうと考えるが…

 

【評価】
【星の数】☆☆☆☆☆

村上龍の力作。引きこもりを取り上げた名著です。

秀樹の存在は自分と重なる…。故に心にしみる作品でした。

 

本作には「救いたいという思いは案外簡単に暴力につながります。それは相手を対等な人間と見ていないからです」「他人を救いたいという欲求と支配したいという欲求は実は同じです」という台詞が出てくる。これは秀樹がDVの問題に詳しい弁護士に相談に行った際の台詞だ。秀樹がなぜ女を救いたかったのか、その真意を弁護士が見抜いた際の台詞である。

引きこもりの問題を考えた時、当人を助けようとい救う視点は違う。そもそも「救う」という時点で「相手を対等な人間と見ていない 」のだ。これは引きこもりの問題だけではない。

ではどうすればどうすればいいのかが、本作で示されている。その答えは是非本を読んで探していただきたい。

なお本作は引きこもりの問題だけではない「現代の家族」(もう10年前だが…)のありようが示されている。

例えば秀吉は家族とは一緒にご飯を食べることだという。そういう価値観を持っている。しかしこの内山家ではそれができない。そもそも、仮に一緒にご飯を食べていても、家族の構成員皆が別の方向を向く家庭は真の家族なのだろうか?私は「みな一緒に食べている」という「実績」があるからまだ我が家は大丈夫だという秀吉の必死な思い込みのようにしか見えない。

そういう必死な思い込みがあるから、秀樹は秀吉になんだかんだ期待されている。「引きこもりでも自分の息子だからいつか立ち直ってくれるという」思いだ。しかし秀樹にはその思いこそが重りになってしまう。


そういういかにも現実にもありそうな、気持ちが絡まりあってうまく機能しない「家族」を作者の村上龍がどうほぐしていくのか、それが本作の最大の魅力だと思う。


本作ラストには賛否があるらしいが、自分は良かったと思っている。寒い「実績」ではなく、そういう価値観を壊して、家族の一人ひとりが自立して自由に生きようとすること、それが大事なのだというメッセージには共感できる。何かにしがみ付くのではなく、自分のやりたいことを目いっぱいすればいいのだなというのが本作を読み終えた感想である。

まぁ実際問題はこういうことって難しいと思う。でもこういうのも一つの家族の在り方だと示した本作の意味は大きいと思う。村上龍っていうと過激というイメージもあるようだが、本作ではそれがない。あくまでやさしいタッチで描かれているのでそこは安心。